シンガポールには、山も四季もなかった。日本には、連なる山々があり、四季 があって、水の豊かな国と思われがちだが、実は日本も毎年大量の水を海外から輸入しているという考え方がある。水を使わなければ製品化されない農産物や畜産物が輸入されているからだ。これを「間接水」というそうだ。輸入国の生産地、飼育地で費やされる水があってこそ、それらが製品化される。つまりは、その間接水を大量 に輸入しているという理屈である。
 食糧の自給率が160 %とも言われるタイと異なり、日本は40%を切ったとも言われる。 石油が国際紛争の火種になっているが、既に次には水戦争だと言われる。産業の動力源となる石油と、生命を維持するための水、どちらもそれを求めて争うのが、宗教戦争、民主国家という名目に隠された偽らざる真実だ。  知人が日本の輸入を手がけているドバイの水、「マサフィ」は、砂漠の下の自然濾過されたミネラルが豊富な美味い水である。一方、石油精製技術を各国に売っているシンガポールはマレーシアから水を買い、海水から真水化装置の技術を日本から買っている。
「水質のいい国でなければ、フィルムメーカーは生まれない。だから、アグフ ァーやコダックが、富士フイルムや小西六のさくらが世界的ブランドになった。 歴史的情報を記録して残そうという文化的意識が高い国にこそ、フィルムとカメラのメーカー技術力が高くなるのだ」
 高校生の頃、学校の先生にそう教えられた。
「世界の中でも日本には、フィルムメーカーは2社もある。カメラメ ーカーは、キャノン、ニコン、ミノルタ、ヤシカ、ゼンザブロニカと、誇れる会社が多い」 先生は、さも、自分が関係しているかのような口ぶりで、胸を張った。
 40数年経った今、デジタル技術が、フィルムを追いやり、カメラの機能を変え るまでになったこと、東京通信工業(ソニー)や松下電器(パナソニック)がカメラメーカーとなったこと、あの先生にも想像できなかっただろう。いや日本企業のトップ経営者にも、デジタル技術の遅れが、これほどまでに企業生命力を急速に衰退させるとは思いも寄らなかったことだろう。
 IT産業に水質が重要であることに変わりはないが、「デジタル」の4文字は、平均年齢70.1歳 の船客の中でも、夢物語に近いことまでやってのけている。 船内で撮った数分後に自室のプリンターで写 真にしてプレゼントしあっている ことや、インド洋の海上から衛星通信で元気な姿を日本の孫へ送信するなどを至極平然とやっている。
「ただいま、右前方2kmあたりに、いるかの群れを見つけました。船は、その方向に向かいます」

イルカの大群

船内マイクが知らせる。あちこちの部屋からカメラを持って飛び出す。捕鯨船団の銛を持つように皆カメラを構えている。一人の男性 は、300mmレンズのついたカメラで、いるかの群れを連写するでもなく、シャッターを切る指が1回しか動かない。彼は、それでもいるかを追っている。 ムービーに納めていたのだ。
「こんなか、メディア、1ギガ入れてるよってにな」 にっと笑う老人は、少年の顔になっていた。



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