アメリカで初めてというか、とうとうと言うか、BSE感染が確認された。日本政府の対応が輸入の一時停止を決めた。これほどの見事な即断力が、いまの小泉政府にあったのだろうかという程の切れ味だった。
TVのニュースは、牛丼というメニューが日本から完全に消えてしまうかのように、大げさにファーストフード店の“最後の一杯”を追いかけてくれている。米沢牛や松阪牛の“高級”牛丼があってはいけないほどの勢いだ。アメリカンファーストフードのマクドは、二度三度の波を被ってきたせいか、すんなりと豪州産に切り替わっていたことで、皮肉にもニュースに取上げられないままになった。それに比して、和食のワンコインフードの「なか卯」「松屋」「吉野家」は連日ショップロゴがTV画面
に大写しである。なんとNHKにこれほどロゴが堂々と取上げられたことがあっただろうか。
“最後の牛丼”のカウントダウンを地方各局のカメラマンは、ここぞとばかりに追いかけている。あたかも、往く年来る年の大晦日のような盛り上がりである。なにか、“祭り”か、イベントのような取上げ方である。「初めて食べた、美味かった」など、もうまさにプロモーションビデオさながらである。ぺイドパブでもここまで露出量
は稼げない。吉野家は、熱烈な吉野家ファンをTVに登場させられたし、潜在顧客をトライアルをさせて新規需要者の掘り起こしに成功した。
この報道そのものがいささか変である。ジャーナリズムが指摘すべきは、ステーキ王国のアメリカでの不徹底な食肉管理のあり方であり、日本がいかに自給自足出来ない国になっていたかを投げ掛けているべきであることだ。全2400万頭を検査すると700億円かかるという米国。年間32kgを口にする米国人に比して日本人は10kgという数字がある。世界でも珍しい食の仕方を普及させたあの仙台名物のタン焼きの消費量
は、米国牛4000頭分に依存しているのだ。なにをおいても、マスメディアは、戦後70%あった日本の自給率が現在は40%になっていることを警鐘すべきではないか。フランスは、実に136%、米国も127%、ドイツが97%、戦後40%だった英国は徐々に70%に高めていったというではないか。和食の要になる大豆の自給率も15%、1970年以降の減反政策で主食の米も危うい状態であることをこの機会に強く教えるべきではないか。聞くところによると、現在の専業農家の後継者はなんと800人だというではないか。農業の株式会社化で変化を期待できるかと想ったが僕の予測も甘かった。
牛を鶏に切り替えた途端に、鶏にも鳥インフルエンザが発生した。吉野家は牛丼からシフトした鶏肉丼でもタイ、中国からの調達である。「悪いことは三度ある」で終りたいものである。今度はアメリカンファーストフードのチキンナゲットやフライドチキンも影響を受けた。タイ産に依存せす、国産鶏肉が多いとは言うものの、不安感が消えたわけではない。鶏肉は、ワンコインフードから、夜の焼き鳥ビールの業域にまでその不安は及んだ。
「食は広州に在り」。邱永漢さんの著作タイトル(中央公論新社)でも知られたこの言葉は、日本でも随分浸透している。広東省広州郊外にある大きな食用野生動物市場・新源市場には、サーズに似たウイルスが検出されたことから、ハクビシンの他に、蛇、亀、狐、孔雀などが食用として売られていたという。町で売られる野生動物園と言われるわけだ。サーズの発生が起きた昨夏は、野生動物を食べるのをやめようというマスコミのキャンペーンがあったそうだが、結局は「飼育された動物なら売買も食用も可」とされた。
「漁夫の利」というのも奇妙な喩えだが、「棚からボタモチ」ならぬ豚肉に食材は再び移りだした。頼りは「豚丼(とんどん)」「かつ丼」「カツカレー」である。季節は、大学受験シーズン。キットキットカッツの「勝つ丼」である。食肉卸業者のジャンケンポンは、くるくると勝者が入れ替わる。
が、ところがである。そうは問屋は卸さなかった。トン屋にも、神はバツを与えた。ベトナムで
鳥インフルエンザウイルスが検出された。豚に感染していたのかどうかは、今後の推移を見守るしかない。
牛角のレインズインターナショナルは、アジアから米国へ進出したばかりである。火の粉を振りまいたアメリカの吉野家では、ビーフボールを食べる客足は落ちていないという。アメリカで感染したとされる牛は、ホルスタイン(搾乳牛)であって、食肉牛ではないという。では、チーズやヨーグルト、乳製品はどうなっているのだろうか。鶏の卵はケーキ類に欠かせない。はてさてどうやら、天は、“てんや”に味方したがっているのだろうか。海の幸を熱するてんぷらへスライドするのだろうか。いったい海はいつまで、安全だろうか。
それにしても、調味料、スープ類やサプリメントのカルシウムや、さらには、ペットフーズの素材には使われていないだろうか。いま、コンビニでの時間切れ食品や、宴会披露宴での食品破棄物になる量
は、2002年度の食品業界全体で1131万トンにもなり、これは世界の食糧援助総量
に匹敵するそうだ。雪印事件、丸大ハム不祥事事件以来、神経質なくらいにパッケージを見つめる。賞味期限を過ぎたものを口にしないという「食の安全」が徹底したせいか、自給自足できない日本というこの国が、これからも残飯の山を築いていく。贅沢という言葉で嘆くことではない腐敗していく問題である。
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