東京に住んで長いがやはり、自分は故郷の中日ドラゴンズのファンである。杉山悟、西沢、本多、井上、木俣という時代からである。優勝パレードを栄の交差点で手を振った学生時代を思い出す。不思議なことに、我が家では、父と名古屋球場に出かけると、必ずと言っていいほど、中日は負けた。だから正直言えば、球場に足を運ばない、行けない、いけない、ついていない、悪いファンである。観客になれないファンである。最近は、TVで試合を観ていても負ける。カミサンは、ドラゴンズ中継だと、止めてくれという。負けるとなんとなく部屋の空気が変わるからだという。だから、今では、ジャイアンツの対戦番組にチャンネルを切り替えることがある。ジャイアンツが負けろと念を送るために、である。
 天才・長嶋と努力・王で野球少年を多く生み出したジャイアンツだが、FA制度が始まってからというのも、監督・長嶋はあれこれ欲しいで球団側は金にあかして何でも与えた。間違いはあそこから始まったという人が多い。巨人の年俸総額は12球団ダントツの53億円だそうだ。監督就任1年で優勝したバッター・原を降ろし、ピッチャー・堀内が座り、金欠の近鉄からローズを獲り、無償の小久保を加えても「スタメンだけで総額23億円超の高額打線」がスタートした。皮肉なことに、選手会長の高橋が腐り、無償の小久保が打ちまくり、メジャーで試したい上原は腐り、年長者工藤と木佐貫はこき使われ、ピッチャー・堀内巨人は、「投壊」。
 落合・中日の今年は、放出する選手はないとして、選手の自覚を促し、首位 をキープしている。星野・阪神のように、カネをかけても補強した選手が優勝に貢献するならファンも納得するだろう。野球の楽しさを演出する新庄ならファンも応援するだろう。いまは、視聴率も落ちて、スポーツ新聞部数も芳しくないかもしれないが、NTVも不満が滞留し始めていることだろう。

 こうした23億円打線を笑うかのように、他のチームが打ち負かすような試合展開を楽しませてもらっている。「パ」のことをとやかく言うほどになく、曲がりなりにも「セ」は、アンチ・ジャイアンツで関心が保たれているのかもしれない。野球中継で番組時間が順延になることに不満を持っている視聴者も増え始めているのではないか。ということで、中継よりも、ネットの速報で結果 を見ることが増えた。携帯電話のTV画面で巨人戦を観るならそれなりに、料金に見合うメリットを与えなければという友人もいる。堀江ライブドア派である。
 最初は近鉄も、身売り先を探していたのだろうが、年間40億円もの赤字が出る球団経営を引き受ける企業なんてないと諦めてしまったことが、今回のナベツネ1リーグ論に火をつけたようだ。タイミングは遅れたが、球団買収を申し出たライブドアは、読売新聞媒体に比して新しい媒体である。球場という箱モノ事業に若者の潜在的吸引力があるとそれを見越してヤフービービー球場が生まれたように、プロ野球界も、新しい業態にその兆しを見たはずなのだが。新聞社の役員や鉄道会社の役員が、新しい媒体を『信頼できない』と一蹴することこそ、時代を読みきれていない証拠だ。ロッテの重光オーナー代行は「5チームでは赤字が年間50億円まで拡大する可能性がある」としている。なぜ、野球が面 白くなくなったかの、市場政策論をなおざりにしておいて、むしろ働くものとそれを観に来るファンを整理しようとする暴挙は、既に「パ」崩壊というよりも、野球への関心が大相撲のそれと同じくらいに危機的状況に入ったということだ。
 コカコーラ・ジャパンでさえ、ガス飲料を飲みたくないという日本人が増えたとき、国内ボトラーの声を無視できずに、缶 コーヒー発売に踏み切って成功した。それも、コーヒー豆産地からネーミングせず、コカ本社の顔色を伺ったのか、アトランタに本社のある「ジョージア州」から採ったほどだ。元来、米国人は、ネルドリップなどで抽出した「熱い」コーヒーこそが、珈琲だとしたのである。コカは一方で、お茶飲料の「爽健美茶」を先駆け成功させた。サントリーは、「烏龍茶」をペットボトルに入れた。中国人は不思議に想った。なぜなら、お茶は温かいモノであるという通 念があったからである。しかし、いまや、冷やして飲む烏龍茶の美味さを教えてくれたのは、サントリー;三徳利であると感謝している。
 頑なに守り抜くものと、時代の進化、市場の変容、顧客の変化で頭を切り替えるものとが、現在の経営者の、トップに座る目線の高さだろう。市場から撤退するか、顧客層をスライド・シフトするか、マーケティング思考の肝要なところである。プロダクト・アウトしたモノがどれほどに技術が優れていようとも、使い勝手が悪ければ、購買者は手控える。マーケット・インから生み出されたモノがたとえ、ローテクでも不満解消型ならば、手に入れたくなる。そして、すべてのビジネスは、1社の取引先、一人の顧客の支払いから始まっているのだ。
 先代の企業像にあぐらをかいてきた新聞も鉄道も、歌を忘れてタレント売り込み産業と化したレコード会社も、人の不安をビジネスにしてきたのかもしれない、マーケティング思考の希薄だった病院も大学も、国民の議事を代行するとした代議士という公僕の勤めを蔑ろにした国会議員も、顧客満足度を再度考え直す時期に来ている。いや、既に遅すぎるかもしれない。

 高学歴社会で新しい市場を創ってきた団塊の世代。彼らはリストラの風邪に倒れて、満身創痍である。家庭が落ち着かない日本国は、息子達の代が、その父親を見るに忍びなく社会市場に反撃に出てくるに違いない。早急に社内告発の法的なガードが望まれる。
 「噂の真相」は休刊になったが、これから「自社の真相」がどんどん週刊誌に掲載されていくことになるだろう。社員のための、従業員満足が満たされない企業ほど、社員と情報の怖さを知るべし、である。雪印の不正を内部告発した「西宮冷蔵」の水谷社長が国にから営業停止を受けてから2年。梅田の歩道橋で雑誌を売る露天商で歯を苦縛った。TVニュースで初入荷した品物を見せた中に、アサヒスーパードライの段ボールを見たときは、アサヒビールの意志というか、ビジョンが確かなものだと再確認できて、非常に嬉しかった。

 「私をスタジアムに連れていって」の歌が、日本でも流れることになる日が来るのか。
 ストライキは、弱い従業員の最後の武器である。選手のストライキが起きても仕方がない。ファンが座席を満たさない球場は、経営者が怠慢であるからだ。筑紫哲也がTV番組で提言したように、球団側は、収支の決算報告書を出すべきであり、出さない経営者に説得力がない。企業側は、いま、米国流に成果 主義を採り入れ、四苦八苦し始めた。結果として、売上数字の計上されない部門が軽視される傾向である。

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