萩原高の部屋  過去の日記 その4(2001.7.30)




ブランド。市場で信用された価値ある商品名。
入院患者にとって、毎日の楽しみといえば、毎食の食事の時間になってくる、だんだんと。
周りにあるのは、白いシーツでメーキングされたベッドと、看護婦さんの白衣ばかり。
そうではなかった。各人が地下の売店で買ってくる、ペットボトルのソフト飲料。
入院している身であるから糖分控えめとでも言われているのだろう、
大半は、ナチュラルウオーターと、お茶系。毎日変わる人も、いつも決まっている人もいる。
廊下を歩きながら、のぞき見ると、ここにも、
入院以前からのその人たちのマインドシェアの戦いが垣間見られて面 白い。
患者は、毎日の食事の中に届けられてくるブランドを、どう思って眼にしているのだろうか。
病院食に選ばれたブランドは、他の商品から選別されたものと考える人が少なからず、居るだろう。
この「森永3.5牛乳」は、医師が承認しているものだと受け取る人もいるだろう。
市販の食パンは、塩分が入っていますから、
萩原さんは病院で出すパンを食べられたほうがいいですよ、こういわれて、なるほどと頷く。
そうしてみると、横に付いている、この「べに花油使用ラーマヘルス(リノール酸60%使用)」は、
やはり、選別された<価値組>のブランドに違いない。
産院での粉ミルクブランド、牛乳ブランド、紙おむつブランドなどなど、
専門家医の眼で承諾された製品であるからと、
退院した後もその擦り込み効果は大きいに相違ない。
不安マーケットという市場では、患者には選ぶ範囲は与えられていない。
その代り、徐々にその製品は安心ブランドとなる商品として、累積していく。
親兄弟も親類縁者も見舞客も眼にして帰るのだ。
いま、見直され始めている「口コミ」の伝播力と同じように、
こうした隠れたところで、マインドシェアが高まっていくのだろう。
高齢化社会での、少子化社会での、病院という世界で、更に深く高まっていくのではないか。
ナイキが米国でスポーツ選手を起用しているとき、アディダスは、
ハイスクールでのスポーツ奨学生を育てていたとか、言われてきたが、その戦略の信擬のほどは、
さておいても、ブランドがキャンパスに影響を与えていたことは否めない。
長男が通学していた中等科高等科では、構内で履くシューズは、
ノーブランドという規制があったと記憶している。
つまり、病院内ブランドも、いわゆるこうした納入業者の戦いの結果であるのだが、
安心というお墨付きが、いったん、自宅に帰ってから、どう累積効果となっていくか、
各社メーカーの関心事は、追跡調査をしたいところだろう。
昨日、マッチ箱サイズのウナギが出た。食事の金属盆には、黄色い紙が乗っていた。
「本日は、土用丑の日ですので、ウナギを出させていただきました。」
こんな意味の挨拶文が印刷されていました。
塩分の制限をされた自分には、マッチ箱でもご馳走だった。
しかも、この日入院していなかったら、
間違いなく、どこかで、大盛りをぺろりと口にしてしまっていただろう。大好物だったから。
今日の昼、ご飯がいつもの茶碗ではなかった。小さな皿だった。
蓋付きの碗を開けたら、カレーだった。
なんと、大好物が二日間続いたわけで、うれしさこの上ない。
実は、カロリーの高いカレーは、もう食べてはいけないと宣告されるだろうと思ったので、
入院前にどうしても食べておきたいカレーショップに寄っていた。
そこは、台北に居た長男が連れていってくれた店で、非常に自分の好みの味だった。
日本では四谷3丁目にあると聞き、慶応病院の帰りに向かった。
オーベルジーヌ*1の統括マネージャー・押尾隆之さんは、
「私が台湾にいたときに、よく来ていただきました。台湾*2と日本の両方の店に
顔を出してくれているお客さんは、貴方の息子さん、豪君だけですよ。有り難うございます。
そういえば、よく似てらっしゃる、髭までつけて。」
とにかく、入院前に口に出来たことに、なにかやり遂げたような気持ちで階段を下りた。
今日病室で出たカレーは、塩分ゼロのカレーではあったが、僕には、やはり、ご馳走だった。
横に付いてきたパック牛乳は、今日も、同じメーカーブランド、森永3.5牛乳だった。
ヨーグルトは、果たしてどこの商品が安心ブランドとなっているのかなと、
思いながらの少量のカレーは、いつの間にか無くなっていた。

*1…オーベルジーヌ東京(四谷本店 新宿区四谷3-1福島ビル2F。TEL:03-3357-7418)
*2…オーベルジーヌ台北(台北南京店・南京東路2段11號B1F)


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