もくじ

060405
横浜ロイヤルパークホテル

060406
横浜出航

060407
神戸

060408
大隅諸島

060409
バーシー海峡


060410
ルソン海峡


060411
南シナ海

060412
南シナ海2

060413
シンガポール入港

060414
シンガポール2

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アチェ・スリランカ西沖


 今日は慌ただしい。停泊時間が少なすぎる。シャトルバスで往復しても街での滞在時間が分刻みだ。午前9時に出るシャトルバスはDFS(シンガポール・デリューティーフリーショップ)への買い物客用だ。移動時間が20分。ショッピングタイムを40分として、DFSからの最終バスが10時発。これでは、街をぶらつくことも出来ない。
 アラブ街やインド街までは足を伸ばせないが、せめて、妻にはシンガポールのオーチャーロードを銀ブラならぬ 、「オチャブラ」をさせてやろうと思っていた。
 新しい地図では、以前宿泊したホテル・ディスティニーがマリオットに変わっていた。夕食に美味いタイ料理を食べに出たり、怪しげなビルの中に案内されて偽時計を買ったりしたのは15年前だった。
 デッキゴルフのために、襟首の日除けキャップを探したかった。ハーバーセンターの商店街は10時にならないと開かない。今日は下船せずに、のんびりしようと話していた。
 ところが、帰路のDFS出発が10時30分だと知らされて、急遽、下船しようと妻を急かせることになった。シャトルバスの3台目の出発に辛うじて間に合った。ミセス・ピア村上のガイド付きだった。
 地震がないシンガポールでは、高層ビルが林立している。シンガポールのビジネス街、ラッフルズ・プレイスのスカイクレイパーも、バスの窓からカメラに納めることができた。手前の大がかりな建設用地を、マリナ・サウスという。マリーナ・サウスではない。シンガポールには高い山がない。海岸を埋め立てる土が不足する。だから、ここの土は、マレーシアのマリナ島の土だ。それも、島の姿を消すほどに削り取ったので、この島の名「マリナ」を残そうということで名付けられたという。建設工事は、日本の五洋建設と大林組だそうだ。
 シャトルバスはやがて中華街に入った。淡路島のサイズで、35万人の内77%が中国系というシンガポール。満艦飾といわれる中国系の洗濯物。写 真を撮ろうにも空中に竿を突きだしたスタイルが、ここシンガポールでは少ない。ミセス・ピア村上さんの説明によってその訳が判った。
 事故があったからだという。インドネシアから来たメイドが、先端にひっかかった洗濯物を取ろうとして公団住宅から落下した死亡事件が連続して3件も起きたためだという。それ以降、日本式に横に吊すことを政府が奨励し始めたからだそうだ。

 潮州人の中華街と広東人の中華街を通 り抜け、そしてアラブ街からインド街に入った。元々英国の植民地だったシンガポールには、ジャワ人が150人ほどしか住んでいず、労働力を補うために、英国の統治国インドから軽刑の囚人を送り込んだ。豪州の初期と似ている。後に、大量 のインド人が流入したので、別名リトル・インドと言われる所以である。
 街行くカラフルなサリー姿が目を和ませる。サリー用の布は1.8m×5.5mに決まっているという。痩せている人にも太っている人にも巧く着られる便利な民族衣装だ。3年間、妻にも買ったのだが、今回のアジアン・ナイトに着るつもりがなく、日本に置いてきている。

 今日は、復活祭である。明後日まで三連休。こうした日、家族が揃って食事に出るなら、日本食の回転寿司が大繁盛するのだという。シンガポールのような、宗教の異なる民族国家にとっては、豚肉、牛肉、鶏肉を気にしないでよく、しかも、ダイエットに良いとされるため、回転寿司の店が年々増えているのだという。「ERP」という標識をガイドが説明してくれた。交通 渋滞を緩和するために設置された有料道路の印だが、その精巧なチェックシステムは、日本の技術だそうだ。今日は特に、「海外旅行」するシンガポール人家族が多い。なぜなら、ここから15分も走れば、マレーシアに入ることになるからだ。シンガポール人がどこかへ出るということは、国境を越える海外旅行となるのだと、ミセス・ピア村上は笑う。ところが、この車、税金が250%かかる贅沢品なのである。カローラの1600ccで500万円もするので、一般 的には、公団住宅を買うほうを選ぶのだそうだ。ゴルフのプレイフィーも3万円と高い。駐在員の多くはインドネシアに遠出するそうだ。住みやすい分、生活必需品ではない贅沢なものは、高くなっているのだそうだ。
 シャトルバスは、行けそうもないと妻に言っていたコースを、思いがけず回ってくれた。長いと思った所要時間20分には意味があったのだ。
 バスは、スコッツロードのDFSギャラリア・スコッツウオークに着いた。此処は、ホテルからタクシーで乗り付ければ、その金額分の商品券が出るのだが、我々のように、港からではタクシー金額は出ないのだろう。
 今日は、DFSでのショピングはしない。ただ、4階のトイレを借りるために、手渡された入場券を見せたら、貴重なるナチュラルウオーターを1本くれた。
 貴重だというのは、ここシンガポールは、飲料水をマレーシアから買っているからだ。その対価が値上げされたとして両国の政治問題になりかけた。海水から飲料水を作らねばと考えたシンガポール側に、日本企業の技術が寄与したはずだ。一方、シンガポールの最重要産業はと言えば、近隣の石油産出国に対しての石油精製技術である。つい最近までは、ガソリンより、ペットボトルの水のほうが高かった。世界は今、この水と石油の確保こそが、国家間の戦争のトリガーになると言われている。
 オーチャードロードに出ると菅井夫妻と出くわした。買い物があるというと、菅井美子さんはすぐに判ってくれた。日除けキャップなら、一緒に歩いて探そうとなった。カバードネックとやらのキャップだ。雑貨衣料店なら何処にでも置いてあるだろうと高をくくったのが間違いだった。ラッキープラザやトンビルの商店街を片っ端から覗いたが見当たらない。時間がない。デパートならどうかと、伊勢丹の先にあるニーアンシティビルの高島屋を目指す。オーチャードロードを横切った。高島屋は、開店したばかりだった。戸口に並んだ店員から日本人社員を見つけて、日除けキャップを売っているかを訊く。3階のスポーツ用品売り場で見かけましたがと、若い店員が戸口から離れて、わざわざ誘導してくれた。日本のデパートではあり得ない行動とサービスである。宛にしたその売り場には既になかった。菅井夫妻には、少ない時間を他に使ってくださいと別 れた。その店員は、取引業者に電話をして、他の販売店が何処かを訊いてくれた。納入しているゴルフショップが判った。しかし、今は、その場所まで行き着ける時間を持ち合わせていない。彼の親切に礼を述べた。その胸札にINOUEとあった。3年前、サンディエゴのノード・ストロームで、妻のシューズ・サイズを探し回って対応してくれた黒人のあの店員を思い出していた。今回は、入口から売場に案内して、商品の納入業社まで追跡してくれた、この井上さんのサービスが心に残った。
 日本に帰ったら、銀座線三越駅ではなく、これからは日本橋駅で降りることになるなと、妻に言った。頷いていた。
 ……井上さん、目的の品物は買えませんでしたが、デパートの選択は変わりましたよ、貴方のホスピタリティで。有り難う御座いました……

 急ぎ足で戻る。「オチャブラ」どころではなかった。妻を走らせてしまった。10時30分のバスに間に合った。ハーバーセンターの商店街にあるかも知れないが、時間的に無理だった。帰船時間は11時になっている。しかも、日本の三井住友からの電話が入る。案の定、着いた時間は10時55分。そのまま、エスカレーターでイミグレまで直行するしかなかった。
 3年前は午後12時に着岸した。今回は、夕方の入港で、ナイトツアーとクラークキーの夜景を見せたかったのだろうか。シンガポールでの日中の時間が少なすぎた。やはり慌ただしかった。
 クラークキーにも多くのショッピングセンターがあるが、10月には、「ヴィヴォ・シティ」というシンガポール最大のショッピングセンターが開業する。南部の海岸に隣接して、総面 積が約13万平方もある。伊東豊雄という日本人の建築家によって設計されたショッピングセンターで、映画館を含め約120店舗が入るそうだ。両替したシンガポールドル紙幣は、ついに外気に触れることもないままに財布の中だった。またいつ来られることか。息子たちに使って貰おう。

 現地時間午前11時(日本時間12時)10分、約束通り三井住友から電話がかかってきた。発行された緊急用のカードは使用期間が短い。旅行を続ける5月以降は使えなくなるばかりか、オプショナル・ツアーなどの支払い精算は、帰国の7月13日頃になる。こうなると、再度カード発行が可能かどうかを相談した。 結局、「5月末に、再発行を依頼してください」とのこと。航行予定を考えると、5月19日から2日間寄港するフランスのルーアンで再発行を要請し、1週間後の英国のグリニッジで寄港する2日間の間に受け取ることとした。その機会を逃すと、大西洋を渡った先のニューヨーク港になってしまう。

 シャワーを浴びて、昼食をし始めるころ、窓の景色が動き出した。昼食は菅井夫妻と一緒した。「慌ただしかったが、5631歩、16.8km歩いたことになる」といったら、荘輔さんが、やおら、ドコモの携帯電話を差し出した。見ると、万歩計の機能が付いている。1ヶ月分も保存できるそうだ。荘輔さんの数字は、僕の3倍が出ていた。朝にデッキウオーキングをしてから街を歩いたたからだった。昼食の冷えた蕎麦が実に美味かった。窓の外を「スーパーバーゴ」号が通 り過ぎていった。

 午後、右の下内側の歯茎が腫れ出した。この痛み、どこまで誤魔化して抑えられるか???パソコンを叩いていると、妻が洗濯から帰ってきた。洗濯機をどう使っていいものやらというご婦人に出会ったそうだ。お手伝いさんを連れてくる人は別 だが、三食昼寝、遊び付きであっても、日常の肌着類はクリーニングに出すわけにも行かないから、ご自分で機械を使うことになる。そういう、やんごとなき方々がおわしますのが、ワールドクルーズの乗船客。なんら不思議はない。彼女にとっては、洗濯機も、パソコン同様、電気箱なのであろう。

 フォークダンスもホースレースも4階のドルフィンホールで行われる日だが、パソコンを打ちながら、居眠りをしてしまった。4時まで昼寝と決め込んだ。デッキゴルフとエアロウオーカーが、心地よい疲労感となっているのだろう。
 目覚めると、妻が、今度は布の薔薇を造り終わったところだった。NHKのBSTVは、アイフルが全面 業務停止になったと伝えた。教え子が広報に勤務している。気になる。1兆5000億円。アイフルは業界代3位 でありながら、取り立ての厳しさが度を超えたようである。サラリーマン対象のため「サラ金地獄」という言葉を生み出したほど、ある時期には恐れられたのだが、「チワワのCM」が話題になると、若い層に親近感を強めた。
 このCM 、可愛さの余り、給料日を待てずに買ったのが、アイフルのおかげだったというエピソード。それが、チワワの可愛らしさに負けて、本来の「急な用立て」というシリーズを続けていない。あらぬ 方向に流れたまま、次から次に制作放映されていくことに呆れていた。銀行の傘下に組み込まれていく内に、借り過ぎを諫めるために「計画的に」と、TVCMは各社が判で押したように呼びかけてはいく。それをユーモア路線で誤魔化していたことにも疑問を感じていた。多額な広告費を持つクライアントに逆らえないクリエイターも責められないが、結局は、宣伝部の無力さである。こうした会社のトップに宣伝部は往々にして抗えないものだ。武富士の例を見るまでもなく、広告屋の創りあげた企業イメージは、自社内の不祥事から一瞬にして失墜することが多い。これからは、金融庁を含め、放送する局側も、ますます、規制を厳しくすることだろう。
 ニュースは続いて、佐多岬の高速艇が船底でぶつかったものが、鯨とは特定できなかったらしいことを伝えた。シートベルトをしていても、多数の乗船客が腰を圧迫骨折したことで、今後のシートベルトの改良を検討し始めたという。空は空で、スカイマークが機体の修理期限を経過して飛行していたという。いずれも一連のニュースが、「予備予防」を指摘するものだった。東日本の山沿いで明日、雪が降るという。

 夕食に2階に降りた。昨夜から海賊対策に備え、デッキでの夜間パトロールが行われている。デッキに面 するドアはすべてロックされる。デッキが高くて乗員の多い客船は襲いにくいのだそうだが、船員数が少ない上にデッキが低いタンカーは、船尾から乗り込みやすいので狙われるのだ。管一等航海士の話では、最近では、海賊側の武器も船も装備が進化してきているという。ボートではなく、母船で沖合にまで出てきて、そこから快速艇に乗り替えて、デッキに上がるそうだ。警戒するに越したことはない。ご苦労様だが、お願いします。

 寝る前に気づいた。日除けのためのキャップこそ、船内のブティック「アンカー」のオリジナル品として販売してもらいたい品物だと思った。これも、何卒お願いいたします。



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